サッカー世界大会が開幕した6月のある日、4人のサッカー選手が福岡に集まりトレーニングキャンプが行われました。
けれどそのキャンプ期間中、彼らがボールに触れることはほとんどありません。自分の身体に向き合い、その使い方やコンディショニングを集中して学ぶ。
この「MYNOトレーニングキャンプ」を企画したのは、京都サンガF.C.、ギラヴァンツ北九州を経て現在は鎌倉インターナショナルFCでプレーする内藤洋平選手。指導するのは、世界の舞台で活躍する選手やJ1リーグの選手などを中心に、40名以上のトップアスリートをサポートするパフォーマンスコーチ・阿久津洋介氏です。
2023年から毎年行われるこのキャンプに、今年はTENTIALもサポートに加わりました。
そもそもMYNOトレーニングキャンプは、内藤選手の「オフシーズンに仲間で集まって自主練しよう」という小さな呼びかけから始まりました。それが回を重ねるなかで、自主練の場から、「シーズン前に自分の身体と向き合い直すための場」へと位置付けが明確になっていきます。
選手は、体格も、年齢も、抱えている課題も、一人ひとり違います。だからこそ、自分の特性に合った準備の仕方をシーズン前にきちんと学ぶことで、シーズンを通して戦える身体をつくっていく。そのきっかけを提供したいというのが、内藤選手がキャンプに込める想いです。
少人数で行われるキャンプの参加者は、Jリーガーが中心。年によっては大学生や、社会人サッカーリーグの選手も顔を揃えます。内藤選手によると「選手のつながりや、阿久津さんからの紹介、興味を持ってくれた人に来てもらっている」とのこと。声をかけ合って集まる、選手主導のキャンプです。
今年の舞台は福岡。内藤選手が北九州時代から続く縁で立ち上げた「MYNO FIELD」が、キャンプの主たるトレーニング場になります。このキャンプが他と一線を画すのは、コンディショニングの密度の高さにあります。阿久津氏によるトレーニングを軸に、複数のメーカーから提供された最新の機材や治療器具が揃い、参加選手が寝食を共にする宿舎では、キャンプのために招いた調理師による栄養計算済みの食事が3食用意されます。
夕食後には睡眠セミナーが開かれ、眠るときにはリカバリーウェアに袖を通す。起きてから寝るまでの24時間、コンディショニングに向き合い続けるような環境は、プロアスリートの合宿でもなかなか実現しないものです。
TENTIALは今回、参加選手に「BAKUNE Mesh」と「BAKUNE アイマスク」、そしてキャンプ中に共用で使う「BAKUNE BATH 重炭酸入浴剤」の3点を提供しました。本質的かつ最前線のコンディショニングを追求する場に相応しいものとして、阿久津氏に選ばれたのがTENTIALだったのです。そして初日の夜、TENTIAL執行役員CROの舟山健太による睡眠セミナーが行われました。
2026年6月、サッカーが盛り上がる夏がやってきます。4年に一度開催されるサッカーの祭典が開幕し、日本でも17年ぶりにJリーグ オールスターが開催されます。ひとつの競技にこれだけ視線が集まる時期は、そう多くありません。


初日のトレーニングを終えた選手たちが宿舎のリビングに集まったのは、夜8時過ぎ。栄養士が調理した夕食を終えた選手たちは、ワールドカップの話題で盛り上がっていました。そのなかに混ざって、選手たちと一緒に盛り上がっていたのが、この夜のセミナー講師であるTENTIALの舟山です。ひとしきり盛り上がったところで、舟山が切り出しました。
「ワールドカップの話が終わりそうにないので、そろそろ始めましょうか。今日は睡眠の話をしますが、まずは自己紹介させてください」。舟山は東京大学大学院で脳科学を修めた博士で、大手製薬会社で不眠症やうつ病の創薬研究に携わっていた経歴を持ちます。人を眠らせることを研究し続けてきた睡眠の専門家であり、現在はTENTIAL製品の研究開発部門の責任者です。フランス式キックボクシング「サバット」の日本代表選手としても活動し、世界選手権でメダル獲得経験がある現役アスリートでもあります。
舟山は、まず睡眠とパフォーマンスに関するデータを紹介します。長谷部誠さんが現役時代に毎日10〜11時間寝ていたこと、大谷翔平選手も10時間眠ること、睡眠不足で怪我のリスクが約1.7倍に上がるという論文、スタンフォード大学男子バスケ部での研究で40日間毎日10時間眠ることでスプリントタイムが0.7秒短縮したというデータ。

数字を交えながらの話は、より実践的なアドバイスへと移っていきます。朝起きてから60分以内に10分間日光を浴びる。寝る90〜120分前に、夏なら38〜40度のお湯に15分。寝室は0ルクス(真っ暗)が理想。入浴後に深部体温が下がるタイミングが、最も眠気が立ち上がるタイミング。舟山の話を聞いていた選手たちは、今度はそれぞれの悩みを舟山にぶつけていきます。
「朝、尿意で起きちゃうんですよ。それでまた寝るっていうのが悩みで」
「タイには湯船がないんです。シャワーだけで深部体温を上げる方法ってありますか?」
「12時間バスで移動するんですよ。前々日の夜に出て、次の日の昼に試合で」
舟山は一つひとつに、自分の経験や研究の知見を織り交ぜながら答えていきます。「夜のシャワーなら湯船ほど体温があがりません。90分前にこだわらず、寝る前でも大丈夫」、「バス移動ならアイマスクと耳栓はした方がいい」。気づけばセミナーは、予定時間を大幅に超えていました。

セミナーの締めくくりに、舟山は一つ釘を刺すように言いました。「僕は、ゴリゴリの研究者です。エビデンスを元に話をしますが、逆に言うとエビデンスの限界もよくわかっています。エビデンスというものは、たくさんの人数から取った統計値でしかありません。だから必ずしも、自分に合うとは限らない。その人にとってのベストは、エビデンスからはみ出ることもあります。コンディショニングの方法は、人それぞれです。だからみなさんは、自分を実験体にして、何がベストか模索してください。その姿勢こそが、ポテンシャルを引き出すために、とても大事だと思っています」


翌朝、場所を福岡市郊外のMYNO FIELDに移して始まったのは、阿久津氏によるトレーニングです。午前はスプリント、午後はステップワークと、瞬発力と方向転換に直結する動作を、阿久津氏が選手の前で実演しながら指導していきます。
動作の見本となるのは指導者である阿久津氏自身です。そのデモンストレーションには、無駄な動きがありません。傍らで見ていた内藤選手が、思わずこう漏らしました。「阿久津さん、スッて動くじゃないですか。だから僕は、その動きをイメージして動くんですけど、阿久津さんと同じようには全然動けないんです」。
2日目の夜は、阿久津氏のセッションが続きます。テーマは「眠る前の呼吸の整え方」。リカバリーと睡眠の質を底上げするための、身体側からのアプローチです。仰向けに寝て、自分の腹直筋を指の腹で優しく押していく。横隔膜のドーム状の縁を、みぞおちから沿わせるように指で入れ込んでいく。鼻から吸って吐いて、その圧の感触と呼吸を一致させる。

「腰に問題がある人は、まずお腹の部分に硬さがでやすい」、「コンディションが悪い時は、口呼吸になって舌の位置が落ちて、いびきがでやすくなる」。阿久津氏の口から出てくるのは、教科書的な話ではなく、現場で選手と向き合ってきたからこその身体感覚に直結する具体的な言葉です。
セッションの終盤で、阿久津氏が選手たちにゆっくりと声をかけていきます。「仰向けで目を閉じ、手のひら、足先、腕全体、足全体と意識を身体の隅々に移していきましょう」。その声に導かれるように、選手たちの身体から少しずつ力が抜けていくのがわかりました。

阿久津氏は静かに尋ねます。「手先、ちょっとあったかい感じありますか?」「足先がポカポカした人は?」。副交感神経が優位になると、末梢の血流量が増える。その変化を、自分の身体でつかまえるための練習でした。終了後、ひとりの選手がぽつりと言いました。「いやー、これは寝れるわ」。その表情は、確かにリラックスしたものでした。


3日間のキャンプは、最終日のグラウンドでのトレーニング動作の確認を経て、解散へと向かいました。内藤選手は、阿久津氏の指導を受けるたびに、こう口にしています。「15年前に知っていれば、と毎回思うんです。若いうちにこういうことを知っておけば、可能性も選択肢も変わっていたはずだと」。
「J1リーグの舞台に立つことは叶わなかった」。内藤選手はそう振り返ります。だからこそ、自分が知らなかった知識を、若い選手たちには早く知ってもらいたい。それが、内藤選手がこのキャンプを毎年続けていく動機です。
参加した選手の一人は、こう話してくれました。「コンディショニングって、自分一人ではなかなか手をつけられない領域だと思っていました。でも今回、舟山さんや阿久津さんの話を聞いて、これは自分でやれることなんだって気づいたんです」。

TENTIALは、コンディショニングを通じて、人のポテンシャルを引き出すことをミッションに掲げています。挑戦を続けるすべての人が自分の力を出し切れる状態でいられるように、その日々に伴走したい。そんな想いを持っています。
自分の身体と向き合い直すための場。MYNOトレーニングキャンプは、まさにその私たちの想いと地続きの場所でした。キャンプレポート後編では、阿久津氏と内藤選手、TENTIAL舟山による会話を、じっくりお届けします。
キャンプレポート後編:人生が変わるコンディショニングの正体