スポーツ・ビジネス・アート・カルチャーなど各分野で挑戦を続けるプロフェッショナルが、自分の身体にどのように向き合い、どのようにポテンシャルを発揮しているのか。ご自身のライフスタイルで実践されている「コンディショニング※1」についてお伺いします。
今回は、女流棋士の香川愛生さんに取材。女流棋士としての活動を軸に、YouTubeやファンクラブの運営など、忙しい毎日の中、コンディショニングをどのようにしているのかを伺いました。
※TENTIALが定義するコンディショニングはライフパフォーマンス向上のために、体調に関わる全ての要因を良い状態に整えること
── 香川さんは女流棋士でありながら、登録者約20万人を持つYouTuberでもあり、趣味でコスプレなども披露されています。多方面に活躍の幅を広げるのには、何か意図があるんですか?
私は中学3年生で女流棋士としてデビューをして、現在はプロ17年目になります。プロ棋士としての対局のかたわら、将棋の普及活動としてYouTubeやSNSでの発信も行なっています。内容は将棋に関することが主ですが、将棋以外の活動も含みます。楽しいからというのももちろんありますが、最終的に「多くの人に将棋に興味を持ってもらいたい」という気持ちからですね。
── 香川さんが思う将棋の魅力とはなんでしょう。
将棋には勝ちか負けしかない、というわかりやすいところです。例えば麻雀などは多少なりとも運の要素があって、初心者でもプロ相手に勝てる可能性がある。その点将棋は、完全に実力の世界。運の要素は皆無なので、勝ち負けはすべて自分の責任だし、だからこそ勝つと嬉しさもひとしおです。
── 香川さん自身は負けず嫌いですか。
完全にそうですね(笑)。私が将棋を覚えたのは小学3年生の時。当時の私は男まさりで勝気な子供だったのですが、かけっこなど体力的な勝負ごとはどうしても男子にはかないませんでした。
その時に出会った将棋は、体格や性別関係なくみんなが平等に競えるゲーム。がんばればがんばるほど絶対強くなれる!と思ってどんどんハマっていきました。
── プロ棋士としてのモチベーションを保つために心がけていることはありますか。
まず将棋の世界は、他のスポーツなどと比べて、現役時代がとても長いです。若くして引退ということはあまりなくて、「終わりのないマラソン」と例える先輩もいらっしゃいます。ずっと高いモチベーションを保ち続けるというのは、正直私自身も難しく感じていて、今は「目の前の一局一局を丁寧に指す」ということを大切にしています。
── 丁寧に、とは具体的にどういうことですか。
将棋というと「何時間も考えて指す」のようなイメージが強いかもしれませんが、長い間棋士をしていると、実は考えなくてもそれなりに指せてしまうんです。積み重ねた経験があるので、深く考えてなくても勝ててしまうこともありますし、もし適当にやって負けたからといって、すぐに引退を迫られるわけでもないですし。
ただ、私はそれに強い危機感を抱いていて。勝ち負けにこだわることもそうですが、一手一手にちゃんとこだわって、自分らしい将棋にできるように心がけています。毎回「これが最後の棋譜※2になっても後悔がないように」という気持ちでいますね。
※棋譜…碁・将棋の対局での手順を記録したもの。
── 香川さんは24時間将棋のことだけを考えているタイプですか。
10代20代の頃はそうでした。そうするしか強くなれないと思い込んでいたというか。ただ、その取り組み方だと将棋の技術はついても、負けた時に落ち込みがひどかったり、精神的な未熟さを抱えたままだったような気がしています。
それではよくないなと思い、最近は将棋だけでなく、心身のバランスを意識するようになりました。
具体的には、人とのコミュニケーションを増やしたり、コンテンツ制作をしたり、いろいろな将棋以外の時間を生活に取り入れることで、若い時よりも冷静でいられていると思います。
── 厳しい勝負の世界ですが、香川さんが現役を続けられる理由はなんですか。
今は戦う意志がある限り、戦い続けたいと思っています。
私は将棋を20年以上続けてきてはいますが、今以上に継続して向き合った先に見えるものや、できる経験があるかもしれません。もちろん途中失敗することもあるだろうけれど、続けないことには得られないものがあるんじゃないかと思っていて、それはひとつの楽しみですね。
── 将来こうなりたい、というビジョンはありますか。
私は自分自身がひとつのキャラクターというかコンテンツでありたいと思っています。人前に出ている以上、自分の立場から見せられるものがあるんじゃないかと。あるとしたら、それはきっと私のやりがいにつながります。
将棋のプロでありながら、いろいろな挑戦を続けていくことで、みなさんにおもしろい世界が提供できたり、「こんな人もいるんだ」と勇気づけることができたらうれしいですね。
── 女流棋士を続けるために、普段の生活で心がけていることはありますか
日々の生活と将棋の内容は密接に関係していると思っているので、生活面でもできるだけ丁寧に過ごすように心がけています。職業柄崩れがちなのですが、生活リズムを整えるのも本当に大切ですよね。朝は早く起きて夜はちゃんと寝るとか、食事をちゃんと摂るとか……少しずつ改善するようにしています。あとは人間関係もそうですね。家族や友人と接するときも、気遣いを忘れないとか。30歳を過ぎた頃からより意識するようになりました。
── コンディショニングのために、こだわっていることはありますか。
やっぱり一番は睡眠ですかね。20代までは、どこでも寝られるタイプだったし、睡眠時間が短くても特に支障はありませんでした。それが30代になって睡眠不足がダイレクトに対局に影響するようになってきました。対局中、たとえばお昼ご飯を食べた後は眠くなってしまうのはプロ棋士あるあるだと思うのですが(笑)、この頃寝不足の日は、勝負どころで集中力が途切れてきてしまうんですよね。
そういう経験からも、睡眠は棋士にとって絶対必要な要素だなと。
── あらゆるジャンルのプロの方が「睡眠は大事」とおっしゃいます。
そうですよね。私も眠れないことはなかったのですが、対局近くになると「眠れなかったらどうしよう」と思うことも増えてきて。そういう不安にかられないためにも、できることは全部やりたいと思うようになってきました。
── 運動はしていますか。
パーソナルジムに行き始めました。20代は運動とは無縁で、最初行った時は腕が全然あがらなくて愕然としました(笑)。今は人並みに動ける体になることを目指して、ストレッチから始めているところです。
将棋自体が長時間同じ姿勢を続けることが多いので、職業病的なところもあるんですけどね。だからこそ、体を動かす時間を作る必要があると思っています。
── メンタルのコンディショニングはいかがですか。
メンタルを支えてくれているのは、ファンの存在です。2023年にメンバーシップ、今2024年の8月にファンクラブを設立しました。YouTubeは開かれたメディアなので、楽しいことも多いですが、反面心ないコメントで落ち込むこともあります。そんな時にファンクラブに入っていただいている方や、イベントに来てくれる方から温かい応援をもらえると、すごく自信になります。特にファンクラブを作って、精神的にも以前より安定した気がします。
── TENTIALの寝具の愛用者でもあると伺いました。
はい、最近よくリカバリーウェアという言葉を聞くようになりましたが、TENTIALを知ることでウェア以外にもリカバリーを目的としたグッズってこんなにたくさんあるんだ、と驚きました。
その一方で、今まで自分がいかに自分のケアをおざなりにしていたかも実感しました。
── お気に入りのアイテムについて教えてください。
まずは着圧ソックスです。将棋をしている時は数時間正座をすることなんてざら。その時は集中しているし平気なんですが、寝るときに脚に違和感を感じることが出てきました。脚が重いとなかなか眠れないし、変な時間に目が覚めるし。それでTENTIALの着圧ソックスをはいてみたんです。寝て起きたとき、ソックスだけでこんなに違うのかと感激しました。
── 他にはありますか。
MIGARUは部屋着としてよく着ています。肌あたりもよくて、本当にストレスがありません。一日中ずっと着ていられます。
あとは夏に「BAKUNE Bed Pad Cool」を購入しました。程よくひんやりする感じが気持ちいいんですよ。感触も私好み。また暑い時期がきて使うのが楽しみです。
枕は「BAKUNE MAKURA」を愛用中です。これはひとつの枕にさまざまな素材のシートが4枚入っていて、自分で高さをカスタマイズできます。私は枕としても使いますが、抱き枕のように抱えて寝ることも。すっぽりおさまる感じがちょうどいいんです。
ちなみに枕は「BAKUNE MAKURA」を含めて5つぐらい持っていて、その時の気分や体調によって使い分けています。
── 睡眠環境がどんどん整えられていますね。
はい。これまでは夜になっても将棋や他の仕事のことを考えてしまって、「寝たいな」という気分になることはほぼなかったんです。(さすがにそろそろ寝ないといけないな)みたいな……(笑)。それが、寝具が整ってくると自分から「早く寝よう」と思うようになりました。ひとつひとつ意識していると生活にメリハリが出て良いですよね。
── 香川さんのように、若い時から睡眠を意識した生活を送るのはとてもいいことのように思います。
ありがとうございます。私自身、今のところ体調面で特に大きな不調を感じているわけではありません。だからこそ、予防の意味も込めて睡眠や運動を大切にすることが必要だと思っています。そうすることが長い棋士人生の助けになるとも思っています。
棋士
Manao Kagawa